池のほとりで
ひっそり受け継がれる
お盆の蓮の直売所

パワースポット&絶景

蓮の森に迷い込む

8月11日、午前9時。大山下池。
堤防を歩いていくと、視線の向こうに見え始める蓮の森。
そこからすぅっと現れる小舟。

蓮の森を進みながら、ちょうどいいお花や葉を見つけるとカマで刈り取って、また進んで。私が着いた頃には、船の上はこんもりした蓮の小山のようになっていた。

背丈を超える高さの蓮の森の中では、人間がまるで小びとのように見える。

蓮の収穫をしているのは、大山浮草組合の皆さん。約400年以上前から上池・下池の自然を守りながら池の恵みを活用し、代々その技と伝統を受け継いできたんだそう。毎年8月10日と11日の2日間、お盆用の蓮を収穫することが習わしとなっている。

気温が上がる前、早朝から何度も池を往復し、舟いっぱいに収穫しては蓮の花と巻き葉とたんぽ(果托)をまとめたお盆セットをこしらえる。他にもお盆のお供えの下に敷くための程よいサイズの蓮の葉も用意される。

こちらの舟では、お供え用の葉を選んで摘み取っている。

下池の堤防左端にある船着き場には、パラソルが目印の直売所がある。

9時頃になると収穫は終わり。蓮の直売所もまもなく開店する。蓮の収穫を写真におさめる人や、見学に来ている人、直売所の開店待ちの人が集まり始めていた。

浮草組合長の田中富雄さん、早朝からの大変な作業にも笑顔で楽しそうな姿が印象的だった。

蓮の花をいっぱいにのせて、舟が到着。水面に浮かぶ黒い塊は菱の実。

到着した舟をよく見てみると、ふつうの舟とはだいぶ形が違う。聞いてみると、長方形で底が平らな「方舟」だそうで、水中にびっしりと張った根っこをかき分けて進むには方舟でなければ難しいのだとか。遠目からだと、スイスイーと気持ちよさそうに進んでいるように見えたけれど、実は進むだけでもとても力がいるそうだ。

繊細で儚い蓮の花。たくさんの花の中から美しい状態の花を見つけるのは骨の折れる作業なんだそう。今では、収穫作業を数名の役員だけですべて行っているそうで「今年は、お花屋さんが収穫のお手伝いをしてくれてとても助かった!」と田中さん。
収穫した蓮は、32名ほどの組合員に配られる他、直売所での販売、庄内の花屋さんなどへも卸されている。

一面に広がる蓮の森は、息を呑む美しさ。

花びらが散ると、じょうろの口のようなたんぽ(果托)が姿を表す。

大きくなったたんぽ(果托)。田中さんが子供の頃は、この実をおやつがわりにしていたそう。味はとくに美味しくはないそう(笑)

くるっと丸まって開いていない若い葉を「巻き葉」と呼ぶ。

アジアの屋台みたいな直売所

直売所が始まり、お盆セットを求めてお客さんが列を作る。アジアの屋台みたいな雰囲気に心が踊る。

市内一円からお客さんが仏壇に供える蓮を求めてやってくる。

お盆セットにはそれぞれ意味があり、花は「現在」を、花びらが散ったあとのたんぽ(果托)は「過去」を、これから大きく広がる巻き葉は「未来」を象徴するそうで、花から種になり、その種から新しく芽が出て葉を広げ、再び花が咲くことから、輪廻転生を表していると云われる。

わたしは観賞用に蓮の花とたんぽ(果托)を。大葉と藁でくるくるっとラッピングしてくれた。

蓮の葉が撥水することを「ロータス効果」と言うのだそう。葉の表面にある凸凹の微細構造が水との接地面積を減らし撥水するらしい。顕微鏡があったらミクロの世界をのぞいてみたい。

季節の移ろいが美しい場所

「大山上池・下池」は、約400年以上前に農業用水として作られたとされている。背後にそびえる高館山や八森山からの沢水や湧水、雨水で池が満たされている。隣接する大山公園にはその昔、尾浦城があり、上池・下池には城を守る役割もあったとも云われている。

池の周辺では、早春はカタクリやオオミスミソウなどの花が咲き、夏には湖面に広がる蓮が楽しめる。秋からはコハクチョウやマガモなど2万羽もの渡り鳥が越冬のために飛来するラムサール条約登録湿地となっている。冬の白い世界も幻想的。四季を通して美しい場所である。

そんな上池・下池のことをもっと知りたくて、浮草組合長の田中富雄さんに鶴岡市自然学習交流館「ほとりあ」でお話を伺う機会をいただいた。

貴重な資料や写真などをたくさん持ってきてくださった田中さん。

2022年の今年は下池で収穫された蓮も、昨年まで20年以上もずっと上池で収穫していたんだそう。「子どもの頃は、親父が下池で収穫するのを見ていた記憶がある」と田中さん。数十年ごとの周期で上池と下池が交互に蓮の咲く場所が入れ替わっているらしい。自然の不思議。

上池の上空写真。「去年まではこの辺から舟を出しったなや」と田中さん。

下池の上空写真。手前側の堤防の左端が今年の船着き場。

田中さんが子どもの頃は、池でジュンサイが採れたり、泳いだりできるほどきれいだったそうで、池の魚や植物を食料にしたり様々に利用していたという。
時代がめぐる中で、池と人の関わり方も変わり、温暖化の影響もあって冬でも池が凍らなくなったことで、1980年代後半にはコハクチョウが越冬するようになったといわれている。渡り鳥が飛来するようになったことで、上池・下池はラムサール条約登録湿地になり、渡り鳥が飛来する美しい池として注目を集める。それと同時に鳥の糞尿や落ち葉などが堆積していき、池の水がきれいではなくなっていったそう。昔のように、水質改善のために水を抜けばきれいになるけれど、そうすると渡り鳥が飛来できなくなってしまう。もどかしいところもある現状。

「ほとりあ」の副館長 兼 学芸員の上山剛司さんは「すべてをクリアする魔法みたいな解決法はないかもしれないですが、これからの池と人の関わり方を地域の子どもたちやみんなで模索しているところなんです。」と話してくれた。
田中さんも「浮草組合でも、蓮やれんこんの収穫体験や、れんこんの販売も検討していきたい。もっと池に親しんでもらえるようにできたら。」と今後の展望を語ってくれた。れんこんの穴の先に、大山上池・下池の明るい未来が見えてくるかも。

今回の出会いを通して、季節ごとに足を運びたい場所がまたひとつできた。春には草花、そしてまた夏に蓮を、秋にはれんこん、冬には渡り鳥に会いに。何度でも訪れたい。

大山上池・下池のれんこん

大山下池で採れた細身のれんこん。特殊な道具を使って採るそうで、秘密のコツがあるんだそう。

蓮の地下茎である「れんこん」は秋が収穫時期。食用の蓮ではないからスーパーのれんこんみたいな太いものではなく、細くてフシが少なくシャキシャキとした食感が特徴。「キンピラで食べてみれ!」と田中さんに貴重なれんこんをおすそ分けいただいた。

酒井家入部400年記念となる今年。加茂水族館のレストラン沖海月の須田剛史シェフが考案した酒井家入部400年記念「黒鯛御膳」にも幻のれんこんとして使われたそう!

しゃきっと感が美味しい大山れんこんのキンピラ。ごはんが進む。

さっそく自宅でキンピラを作って実食!一口サイズで食べやすくて見た目もかわいい。しゃきしゃき食感がふつうのれんこんと違ってそれも楽しい。地元の人にぜひ知って味わってもらいたい。

浮草組合の田中さん、ほとりあの上山さん、大山上池・下池の歴史や魅力を教えていただき、ありがとうございました。

基本情報

●大山浮草組合

●鶴岡市自然観察交流館ほとりあ
ホームページ/http://hotoria-tsuruoka.jp/
アクセス/JR鶴岡駅から車で約15分、大山駅から車で約6分
駐車場/有り

大瀧香奈子

大瀧香奈子

グラフィックデザイナー フルーツ王国 鶴岡市櫛引の農家に生まれる。おいしいものに囲まれて育ったからか、食べることがとにかく大好き!新しいことを知ること、体験することが好き。 最近は、庄内の風景を写真で切り取ること、植物を育てることに夢中。 面白そうなことを見つけると、すぐ飛び込みがち。 庄内にあるデザイン事務所 はんどれい株式会社所属。 SHONAI Fun!では、デザインやアートディレクション、編集などを担当。

関連記事

TOP