庄内のお雛菓子を2種類つくってみたら、
鶴岡と酒田、それぞれの個性が見えた。

遊ぶ・体験

お人形を飾り、女の子の健やかな成長と幸福を願う雛まつり。3姉妹の次女として生まれ、毎年家族で桃の節句を祝う習慣があった私にとって、大人になった今でも嬉しい年中行事のひとつ。あかりをつけましょ ぼんぼりに お花をあげましょ 桃の花。いくつになっても、なんだかたのしい ひなまつり♫

山形は県内全域でお雛さまの展示が行われて、各所で目にする雛飾りが春の訪れを知らせてくれます。東北に来てからは寒さが厳しいこともあり、冬を越えこの時を迎えられるのが格段に嬉しいのです。庄内でも、鶴岡は「鶴岡雛物語」・酒田は「酒田雛街道」として展示や催しが企画されていると聞き、まずは致道博物館を訪れました。

雪が溶け、春が近づく3月初旬の庄内。

致道博物館の旧庄内藩主御隠殿内では、さまざまなお雛さまが展示されています。

貝合わせなどの雛道具も。酒井家の伝来品や、旧家からの寄贈品が一堂に!

鶴岡の老舗和菓子屋9店舗が集うお雛菓子の展示もあります。こちらは住吉屋菓子舗のもの。

庄内の雛まつりの中で特筆すべき点は、なんといってもお雛菓子。一般的に、お雛さまにお供えするお菓子といえば、「ひな霰」や「菱餅」が思い浮かぶのでは?ところが、鶴岡の「お雛菓子」は、鮮やかな色彩で、鯛や野菜、果物などがモチーフになった生菓子のことを指すそうです。艶やかで丸っこいフォルムがなんとも愛らしい。なかでも鯛や海老のつぶらな瞳がかわいいですよね。今回は、致道博物館ではじめての雛菓子づくりにチャレンジすることに。

教えてくれたのは、住吉屋菓子舗の本間 三雄さん。

お菓子づくりは、全て手作業。つくる人により違いが出るのが醍醐味。

一緒に参加したお子さんは、手先が器用!みかんの皮を上手にかたどって…。

葉っぱとヘタをつけて、出来上がり。子供たちは工作気分で楽しんでいました。

本間さんによると、鶴岡のお雛菓子は200年ほど前に江戸から伝わり、一般的な和菓子ではあまり使用することのない、原色を使うのが“お江戸流”なのだとか。練り切りに分類される上生菓子で、全て手でつくれることから城下町鶴岡で庶民の文化として愛されてきたといいます。つくったお菓子は、飾ってよし、食べてもよし。

私は「桃」づくりに挑戦!白とピンクの生地を合わせて、こし餡を優しく包んでいきます。

出来上がり!う〜ん、なんだかいびつ…?やはりプロの技はすごい。

館内のお花の中にも、桃色を発見。春だなぁ。

子どもからお年寄りまで幅広い世代で楽しめる、和菓子づくり体験でした。そして隣町酒田には、また趣の異なるお雛菓子があるそうで——。庄内の中でもさらに文化が分かれているとは、お雛菓子の世界はなんと奥深いのでしょう。ならばと、酒田のお雛菓子体験にも参加することにしました。

酒田の「酒田雛街道」。酒田港近くの、旧家坂邸を訪れました。

これが酒田のお雛菓子。なんと…!鶴岡のお雛菓子とは、全くの別物ではないですか!!ぽわんとした色合いがなんとも春らしい。

酒田式のお雛菓子づくりを教えてくれるのは、小松屋又三郎当主 小松尚さん。

旧家坂邸は、江戸時代から明治にかけて大阪ー北海道を行き来した北前船で、米と桐油を扱った商家。北前船の貿易で京都から持ち込まれた、お雛さまや美術品の展示も行われています。お雛菓子づくりは、かつて商談をしていたという大広間で行われ、当時に思いを馳せながら、なんだかロマンを感じました。

真っ白な生地は、米粉と片栗粉を合わせたもの。酒田のお雛菓子は、観賞用。食べられないのでご注意を。

お干菓子のように、木型を使用してつくります。

ぽんっ!木型から抜くと、にっこり微笑むおかめさんと目が合った。なんて柔和な表情なんでしょう。

裏と表、ふたつの木型を使用するものも。

さて、勘の良い方は既にお気づきかもしれませんが、このお雛菓子の技術も北前船によって伝わったものなんだそう。木型や、はんなりとした色合いなど、端々に上方文化が表れていますよね。北前船によってもたらされ、酒田で熟成された、全国を探してもここにしかないお雛菓子なんだとか。酒田の老舗菓子店「小松屋」で長年伝承されてきたお雛菓子を復刻したのが、講師をしてくれた9代目当主の小松尚さんなのです。

見本帳や、作り方を書き記した書物も伝承されている。

体験で出来上がったお雛菓子。こんなかわいいお雛菓子が私でも作れるなんて!

ある日、なぜこんなデザインの木型があるんだろう?と不思議に思った小松さん。

調べてみると、かつて貨幣がない時代「宝貝」とよばれる貝がお金の代わりだったそう。

家坂邸でも、さまざまなお雛さまに出会えます。

旧家坂邸、2階の窓からはかつて港が望めたという。ここで北前船を待っていたのかも。

かつて江戸から伝わった鶴岡のお雛菓子と、北前船を通して伝わった上方文化に影響を受けた酒田のお雛菓子。庄内のお雛菓子を2種類つくってみたら、庄内文化のルーツを垣間見ることができました。

基本情報

「第29回鶴岡雛物語」
2023年2月23日(木・祝)〜4月9日(日)まで開催中。
イベント情報:
https://www.city.tsuruoka.lg.jp/kanko/kankou-event/bussantsuruhina.html
開催日程/
3月 5日(日曜)・・・・致道博物館
3月12日(日曜)・・・・荘内神社
3月19日(日曜)・・・・丙申堂
3月21日(火・祝)・・・龍の湯
3月26日(日曜)・・・・致道博物館
体験費用/300円(1個) ※入場料は別途
所要時間/約20分
開催時間/各日 13:00~15:00
そ の 他/ご予約の必要はありませんが、数に限りがありますので、なくなり次第終了いたします。
問 合 せ/ 各施設へお問い合わせください

「酒田雛街道」
2023年月1日〜4月3日(日)まで開催中。
イベント情報:
https://www.city.sakata.lg.jp/sangyo/mtsuri/nenkanevent/march/sakata_hinakaidou.html
<雛の飾り菓子制作体験>
開催日時/~4月3日(日) 不定休
時間/1回目:午前10時30分~ 2回目:午後2時~(所要時間:1時間程度)
対象/定員:中学生以上 各回5名まで(3日前までの予約が必要です)
開催場所/旧家坂邸(酒田市船場町1-7-46)
参加費/一般 1,500円・大学高校中学生 1,000円
お問い合わせ/090-6222-9007

すずきまき

すずきまき

写真家・物書き。神奈川県横浜市に生まれ、2020年春に山形県鶴岡市へ移住。同年、庄内の自然に魅せられて創作活動をスタート。柔和な雰囲気の作風で、日々のなかにある光を写している。2022年4月には鶴岡市内の湯田川温泉にて自身初となる写真展『春眠』を開催した。 ライフワークはひとり旅。温泉めぐりと自然観察を軸に目的地を選び、現在は東北地方を開拓中。無類の温泉好きで、温泉ソムリエの資格をもつ。夫婦+2匹の猫、はるとあきとともに気ままな庄内ライフをおくっている。

関連記事

TOP