年の瀬の町を歩く。
庄内に暮らしていると、どうしても車での移動が多くなって、ふだん見逃している町の風景がたくさんあるように思う。知らない景色に気づくから、たまに歩く小道はとても楽しい。
今日の目的地は、鶴岡市の中心部・鶴岡公園から南に数百メートルのところにある七日町観音堂。「観音様のお歳夜」である12月17日に毎年行われる「だるま市」をお目当てに、七日町商店街の各地に設けられた臨時駐車場からのんびりと歩いていく。
「だるま市はいつも吹雪で寒い」とよく言われているけれど、今年は青空まで見えるお出かけ陽気。
こぢんまりした境内には、出店が立ち並び、すでに参拝客でにぎわっている。新年がより良い年となるように、縁起物のだるまや熊手などを求める人でいっぱい。
夕方になると、今年1年お世話になっただるまや御札をお焚き上げする「だるま焼納祭」や「御祈祷祭」が行われる。一年でいちばんのにぎわいになるのだそう。
「護摩という火を使った御祈祷は一見の価値ありだから、ぜひ見ていってね。」とだるま市を運営している七日町町内会長の吉川さんに教えていただいていたので、まずは境内をゆっくり見て回る。
一番大きなだるまや熊手はすでに売約済み。毎年買い求める企業さんがいらっしゃるそうで、お祭りが終わったら買い主の元へ届けるんだそう。心新たに精進しようと想いを込め、縁起物に商売繁盛を願う。昔の人々は、初心を忘れないよう決意や想いを縁起物というかたちにしてきたのかもしれない。
ちなみにだるまに黒目を書き入れる「目入れだるま」の風習は、江戸で文化年間ごろに生まれたものらしい。願いを込めて左目に墨をいれ、成就すると右目にも墨を入れる。
江戸時代から続くだるま市。
酒井家が庄内を納めていた江戸時代、七日町(現在は本町2丁目)には旅人や商人が泊まる旅籠屋が軒を連ねており、後には遊女を置く下旅籠屋も生まれ、にぎやかな繁華街だったという。遊女たちが「七転び八起き」のだるま様にあやかり、観音様に願いをかけたことがだるま市の始まりと云われている。それがいつの間にか庶民の間で広まり、商売繁盛や合格成就を願う年の瀬の風物詩へと変わってきたんだそう。
だるまの他にもうひとつ、だるま市にかかせないのが「切山椒(きりさんしょう)」という餅菓子。一度にたくさんの実をつけることから子孫繁栄につながる縁起物とされている山椒の粉が入っていて、年の瀬に食べる縁起の良いお菓子とされている。40年以上もずっと出店されているというお菓子屋さん。山盛りに並んでいた切山椒も、日が暮れたころにはすっかり売り切れるほどの人気。
だるま市に出店されているのは、ほとんどが鶴岡や庄内の出店屋さんなんだそう。何十年も同じお店が並んでいるってなんだかいいなぁ。この景色がずっと続いていってほしいと思う。
炎にのせて、願いを届ける。
日が暮れて空が黒に染まると、だるま焼納祭が始まる。
町内会の人や参拝客が見守る中、古い御神札・御守にこれまでのご加護を感謝し、御神火でお焚き上げされていく。赤いだるまを炎がさらに赤く照らして、すぅっと白いけむりが空高く昇っていく。
本殿では、護摩という火を使った御祈祷が執り行われる。御祈祷の声と太鼓の音が鳴り響く中、願い事が書かれた護摩木を組み上げた炉に火がつけられる。和尚様が柄の長いさじで何かを振り入れるほどに、どんどんと火が大きくなっていく。
護摩にはどんな意味があるのか、和尚様にお話を伺う。
「護摩とは、炎を使った御祈祷のやり方のことなんです。この炉は、神様の口とされていて、柄の長いさじのようなもので入れていたのは、神様へのお供え物なんですよ。」透明な液体は油なんだそう。なるほど〜さっきの謎が解けた。
そして「願いが書かれた護摩木は、煙となって神様のもとへ昇っていくんですよ。」と教えてくれた。
御祈祷が終わり、一年の厄が落ちたようなさっぱり感。これで心新たに新年を迎えられそうだ。
新年が皆さんにとってより良い年になりますように。
基本情報
名称/七日町観音堂 だるま市
開催日時/12月17日 10:00〜20:00
SNS/Twitter https://twitter.com/Mfhh0o2TUgQYPR1?s=20&t=SV_cqaG4kZXQtrrlFpnNIQ
アクセス/JR鶴岡駅から車で約9分
駐車場/無料臨時駐車場あり