湯田川温泉は開湯1300年の歴史をもち、幕末には新徴組という浪士軍の本拠地になったことでも知られる古き良き温泉街。春夏秋冬それぞれに表情を変える自然に囲まれ、毎年4月の初旬には梅林公園で梅まつりが開催されます。
横浜育ちの私からすると「梅が咲くのが4月!?」と驚いてしまうのですが、例年3月の梅林公園には雪が残り、梅の開花前線はゆっくりと北上してくる様子。今年は比較的暖かい日が続いたので、3月の下旬には梅の見頃を迎え、それから程なく桜も咲いて、4月の湯田川温泉には春満開の景色が広がっていました。
梅林公園に咲き乱れるキクザキイチゲ。太陽に向かって顔をあげている姿は、なんだか笑っているようにも見えます。誰のものでもない小さな野草。ひとつひとつは素朴なお花ですが、逞しく咲く姿は、それはそれは美しいものです。
公園内には約300本もの梅の木があり、紅梅、白梅など色もさまざまな花が咲いています。なかには、白い花とピンクの花が混ざった木があったりと、歩きながら1本1本、花の表情を見てまわるのがなんとも楽しい。お天気が良い日には、お弁当やお団子を食べながらゆっくり過ごすともっと楽しい。梅まつりの日には各旅館によるお弁当の販売や、女将による野点など、特別な催しも用意されていますよ。
春の湯田川温泉のもうひとつの見どころ。それが、芽出しの風景です。
湯の中にお米を浸して発芽させる芽出しは、春の風物詩。種蒔きを目前に控えた近隣の米農家さんが温泉街で作業をしています。湯田川のお湯の源泉温度は42℃で、その余湯が貯水槽に流れ着く頃には32℃前後になり、これが奇跡的に芽出しに最適な温度なのだそう。温泉の産湯に浸かるお米を見ると、なんだか気持ちがよさそうで…。ちゃぷちゃぷ、ゆったり、湯田川の湯で発芽したお米はきっと美味しくなることでしょう。
突き当たりには、湯田川温泉の共同浴場である正面湯。湯田川に暮らす人々のためのお風呂ですが、観光客の入浴も可能。すぐ近くにある船見商店で200円を支払い、鍵を開けてもらいます。お湯は無色透明で柔らかく、源泉は熱すぎずぬるすぎず絶妙な温度。まるで優しさに包まれるようなお湯です。
温泉ソムリエを取得するほど温泉が好きで、日本全国さまざまなお湯に入ってきた私ですが、じつは湯田川温泉のお湯が一番のお気に入り。「湯田川温泉があるから鶴岡に住んでいる」と言っても過言ではないほど。正面湯では地元の方々とのコミュニケーションも楽しみのうちのひとつです。
なんでも、由豆佐売神社には源泉の女神が祀られているそうで…。境内へと続く参道には、古くから妊婦さんの乳の出を願う信仰の対象になっていた県指定天然記念物「乳イチョウ」があります。そして現在、この逸話をもとに5人のアーティストがそれぞれの解釈で女神を表現した、「湯田川春風アート散歩」が梅まつりにあわせて開催中。じつは私も参加しているこの企画の展示作品を紹介したいと思います。
それぞれの感性で可視化された5つの女神さま。ひと口に女神といってもさまざまな解釈があるのが面白いですよね。そして、6つ目のアート作品なのでは?と思ってしまうお土産にも出会いました。Toshimitsu Yoshino Design Officeと湯田川温泉のつかさや旅館、そして鶴岡の老舗和菓子屋さんが開発した「巡る湯田川温泉まんじゅう」。なかでも「乳イチョウ」への人びとの願いを表現したという「おっぱいまんじゅう」は話題になりそうです。
春の湯田川を訪れたら、美しい自然に癒されたばかりではなく、新しい感性にも出会えました。開湯1300年という情緒に前衛的なアートの側面が加わり、変わりつづける温泉街。湯田川温泉を支える人びとの街への愛情や熱量を感じて、また何度でも訪れたいと思いました。
基本情報
名称/湯田川温泉 梅まつり
開催日/毎年4月第2週目の週末
ホームページ/https://www.yutagawaonsen.com/
アクセス/JR鶴岡駅から車で約20分
駐車場/無料(共同浴場専用の駐車場)