心地よい、初夏の松ケ岡。
「青葉がまぶしい今日この頃、いかがお過ごしですか」と、自然に書き出してしまいそうになるほどに、木立の葉が勢いよく繁っている。
松ケ岡は桜の季節の夕暮れ時が一番好きだけど、緑もいいな!と散策を楽しみながら、2022年4月にオープンした絹織物体験施設「シルクミライ館」にやってきた。
この建物は明治初期に建てられた5つの蚕室の「第四番蚕室」にあたり、実際に使われていた建物をそのまま生かしつつ、館内は展示コンセプトに合わせて新しく息を吹き込まれた。
映像で学ぶ、蚕からシルクへ。
天井から吊り下げられた筒状のシルク布、白いオブジェ、織り機などなど、木製の館内に描かれたシルクの世界。「オシャレ!そしていろいろ気になる!」と、早る気持ちを抑えつつ「一反の絹織物は3,200もの蚕の命」と一瞬ドキッとする本物の蚕の展示から見学をスタートした。
養蚕、製糸、機織(せいしょく)などシルク製品になるためのコンテンツが美しい映像と写真、中には現物までが展示されている。足元には「ここで見よう」のマークが。実際に立つとカタンコトン…と、作業中の音が耳元に響く。映像のクオリティもさることながらこの音が耳障りよく、ずーっと見てらいれるし、聞いていられそうになる。ちょっぴり独占しつつも、課外授業で訪れていた小学生にバトンタッチ。
映像を見て驚くのは、シルクってこんなに手作業なの?ということ。蚕の糸は細く、紡ぐ時や織る時に力が強すぎると切れてしまう可能性があるのだとか。そして、染める作業に関しても、微妙な濃淡を出すにはデジタルでは表現ができず、人の目や作業が必要なのだ。「地元で養蚕から生産まで一貫して行なっているって、こういうことか。」と、その姿に改めて驚き、認識する。そして、職人さんたちかっこいいよ。
はじまりは開墾にあり
しかし、どうして鶴岡はこんなにシルク産業が盛んなの?その疑問を歴史とともに学べる展示ブースへ。
さかのぼること幕末、戊辰戦争に敗れた庄内藩が「戦に負けた汚名を晴らす」ために、刀を鍬に変えて開墾し、農業、産業に発展させたことが、鶴岡シルクのはじまり。
庄内藩は強かった。それは物理的なことではなく、武士、農民、町人と、立場を超えて協力しあったから。簡単にみえるようで、この出来事は他の藩には例がなかったことなのだとか。けれども負けた。庄内藩士は開墾して新たに農業や養蚕業などの雇用を生み出し、国の新たな産業として貢献することで「賊軍」の汚名を晴らしていったのだ。
鶴岡シルクの歴史と性質から未来を見る
シルクは抗酸化作用、紫外線防止、など優れた機能をもつ。製品を作る過程では一切の無駄を出さず、そして高タンパク質。近年では化粧品に活用したり、食品にも原材料として取り入れるなど、まさにエコロジー製品なのだ。
流行やリーズナブルな価格、利便性がどうしても追求される時代に、このシルクを通じて見る未来には、職人の顔が見える、温もりを感じる、無駄がない、エコ、SDGs…。そんなキーワードが重なる。そして、シルクがある街、職人が育つ街、ってかっこいいではないか。
すっかり鶴岡シルクのファンになってしまった。触って、学べて、入場も無料と、うれしい限り。
松ケ岡には当時の趣を感じられる建物を生かして、歴史展示の見学、陶芸、雑貨が楽しめるショップ、2019年にはワイナリーも誕生した。散策と併せて様々な季節に足を運んでみたい。そしてまた職人さんの映像と音をひとり占めしたいのだ。
基本情報
名称/シルクミライ館
営業時間/9:00〜16:00
入館料/無料
休業日/水曜、12月29日〜1月31日
アクセス/JR鶴岡駅より車で20分
ホームページ/
kibiso https://www.t-silk.co.jp/
日本遺産 サムライゆかりのシルク https://samurai-yukarino-silk.jp/
松ケ岡クラフトパーク https://tsuruoka-matsugaoka.jp/