手が生みだすもの土門拳記念館
「The Hands -土門拳が撮った手-」

アート・カルチャー

酒田市が生んだ偉大な写真家、土門拳。
その貴重なプリントが収蔵、展示されている土門拳記念館に行ってきました。

7月7日から始まった「古寺巡礼 Summer Collection」「The Hands -土門拳が撮った手-」「遊ぶこども・働くこども」と三つの展示を同時開催しています。

そのなかでも手にまつわる写真をテーマにした展示、その名も「The Hands-土門拳が撮った手-」(以下「The Hands」)はこれまでの取り組みとはちょっと変わった切り口となっていて見応えたっぷり。

この展示を企画された学芸員さんにもお話を伺いながら、展示の魅力について探っていきます。

建築家 谷口吉生 の設計による記念館。時代に左右されない美しい直線美

土門拳は明治42年に酒田市に生まれ、7歳の頃に一家は関東に移り住み、それからは関東を拠点に暮らし活動していくことになります。

母親の勧めで写真の仕事を始め、次第に報道写真に傾倒していきました。

昭和13年にはアメリカ「ライフ誌」の表紙に当時の宇垣外相の写真が署名入りで掲載されるなど、活躍は日本にとどまらず、世界にもその名を轟かせます。

その後も、写真集の出版、カメラ雑誌の写真審査員、生涯のライフワークとなった古寺の撮影(古寺巡礼)など意欲的な活動を続け、昭和49年には酒田市名誉市民第一号となりました。

これをきっかけに昭和58年には土門拳記念館が開館し、土門の作品が収蔵されました。

入り口では大迫力のカラー作品が出迎えてくれます

土門が実際に使用した機材なども観ることができます

「The Hands」は土門が得意とするクロースアップと呼ばれる、ある一部分を画面いっぱいに写す手法の中から、手をモチーフとしたものを中心に構成されています。

土門の写す手のクロースアップは、ときに顔や全体を写すよりも、そのものの本質や感情をありありと写し出してしまう圧倒的な魅力があります。

とてもスタイリッシュな「The Hands -土門拳が撮った手-」のチラシ

今回の展示のチラシにも大きく使われている《文五郎の左手》。

人形遣い吉田文五郎の左手を写したクロースアップ写真ですが、人形を持つ手にできた指ダコと、年輪のように重なるシワが、長年の稽古や舞台の時間、そして生き様を物語っているようで、それが今にも動き出しそうなリアリティと気配を持ってモノクロ写真に見事に結実しています。

《文五郎の左手》は右から3番目の作品

その他にも画家、陶工、はたまた仏像の手の写真など、ジャンルを問わず土門が写した手にまつわる写真が会場に並びます。

 企画展示室Ⅰ

土門の写す手の写真を眺めていると、その仕草まで見えてくるようでなんとも言えない不思議な感覚になります。

藤田嗣治の手 (右2枚)

今回面白いのは、同時開催である「古寺巡礼」にも手にまつわる写真が展示されているところ。

本来「古寺巡礼」は、土門が生涯のライフワークとしていた神社仏閣や仏像などを撮りためた作品群。

仏像の各部位のクロースアップ写真はその被写体の補足的な役割を担っていましたが、それを意識的に展示しているのがとてもユニークです。

「古寺巡礼」ですが、こちらも 手の写真が目を引きます

「The Hands」にちなみ、仏像の手の印象的なものも取り上げて、意識的に配置することで、独立した展示のテーマだけでなく、それぞれの展示を横断するかたちで総合的なモチーフを加えることで全体の統一感を生む構成となっています。

またこの「古寺巡礼」で他にも印象的だったのが、各パーツごとに組写真のように作品が配されているところ。

これまでであれば、同じ仏像、同じ神社などでまとめられていた写真が、今回はそれぞれ違う仏像の顔のアップや、手のアップ、または全体像と、モチーフの部位に着目して作品がまとめられています。

仏像同士の顔の違いなどを見比べながら鑑賞でき、これまでにはない楽しみ方もできそう。

仏像たちが会話しているようにも見える

ここはどういう風に並べてあるのだろうと考えながら館内をめぐっても面白い

この展示を提案、企画したのが、田中耕太郎学芸員。

これまで東京のギャラリーなどで働いていたことがあるそうで、その経験やノウハウを活用してこれまでよりさらにたくさんの方に届けられる展示のあり方を模索しているそうです。

当然今まで通りとはいかないところもあるため、場合によっては関係各所へ意図の説明や説得を必要とする場面もあるそうですが、そういうことも苦にならないご自身の性格を活かしながら、もっとたくさんの方に土門の魅力を伝えることができればと意気込みを語ってくれました。

田中耕太郎学芸員

他にも、土門の描いた絵画や書など、土門の「手」から生まれた作品も展示されていて、展示のあり方や可能性に広い視野を向けながら、のびのびと展示を企画されている様子が垣間見えます。

そんな田中学芸員が着ている素敵な土門Tシャツ。

これもご自分で作ったもので、いずれミュージアムグッズとして展開するために、まずは試しに着ているとのこと。

試作のTシャツ姿がかっこいいです

今回の展示を生み出した田中学芸員の手

土門の「手」によって生まれた作品に囲まれながら、展示を生み出していく人々の「手」にもまた感動を覚える展示となっていました。

決して変わることのない土門拳の魅力を、新しい見方や角度から新鮮な感動を届けようとしている土門拳記念館。

今後の展示も、要チェックですね。

「The Hands」と「古寺巡礼」「遊ぶこども・働くこども」の展示は8/29(月)まで展示されています。

また学芸員によるギャラリートークなども予定されており、さらに作品を詳しく知りたいという方はぜひ土門拳記念館の公式サイトや、SNSなどをチェックしてみてください。

「古寺巡礼」は 主要展示室での展示

「遊ぶこども・働くこども」が展示されている企画展示室Ⅱ

土門拳記念館周辺には拳湖の呼び名で親しまれている池があり、周囲をぐるっと散策することもできます。

拳湖の対岸から見る土門拳記念館 <

時期になると135品種もの色とりどりのあじさいが咲きみだれ、これも見どころです。

取材の日は見頃のピークは少し過ぎていたものの、それでも見応えあるあじさいの可憐な花々を堪能することができました。

途中にはベンチなどもあり、ゆったり散策できます

基本情報

名称/土門拳記念館
営業時間/9:00〜17:00 (入館は16:30まで)
休業日/年末年始休業 12月〜3月 毎週月曜日 その他展示替臨時休館あり
ホームページ/ http://www.domonken-kinenkan.jp/
アクセス/日本海東北自動車道 酒田I.Cより 車で約5分
駐車場/あり 飯森山公園内駐車場をご利用ください
料金/
□特別展 一般:900円 高校生:450円 小中学生以下:無料
□その他の期間 一般:700円 高校生:350円 小中学生以下:無料
※その他 年間入館券や、共通入館券などもあります。詳細はホームページをご覧ください

土田貴文

土田貴文

写真家。 庄内に生まれ、一度は映画製作を志し庄内を離れましたが、また生まれ故郷で暮らしています。 子供のころには気づけなかった庄内の魅力。庄内を離れたからこそ少しずつ気づけるようになりました。 映画製作を勉強する過程で学んだストーリーを表す力で、目に見えるものだけでなく、想いや感情もお伝えできればと思っています。 とはいえ、特別なことばかりではなく、日常にひそむ面白さや楽しいところをうまく取り上げることができればいいなと思います。 ぜひ地元のワクワクを皆さんとも共感したいです。 庄内。きっと気に入っていただけるはずです。 好きな食べ物 / 鶏肉 最近興味のあるもの / 少し前のマンガ(とくにガロに掲載されていた作品) 妻は陶芸家の土田英里子。 夫婦でオンラインショップ「日々のうつわ店」(https://www.instagram.com/hibi_utuwa2018/)の活動もしています。

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