木と糸ひとが紡ぐ、
「日本三大古代布」しな織

遊ぶ・体験

日本三大〇〇、というと何を思い浮かべるでしょうか?
日本三景、日本三大祭り、日本三大秘境…?

鶴岡市関川地域では、「日本三大古代布」の1つである「しな織」を昔ながらの方法で作り続けています。そして、人口に対して半数もの住民が製造に関わっています。
私たちが住む地域でもあり、我が家ではオバア(祖母)がしなづくりをしています。
標高約270mの周囲をぐるりと山に囲まれたこの場所で、どのようにしな織が作られているのでしょうか。

摩耶山の雪解け水が流れる、山紫水明の里。

日本三大古代布としな織

しな織以外の三代古布は、静岡県の「葛布」と沖縄県の「芭蕉布」です。この全ての古布に共通していることは、原材料が植物だということです。この他にも自然布は国内に存在しますが、第二次世界大戦以降、工業化が進み安価な化学繊維の台頭によって、全国的に自然布が姿を消していきました。

しな織はシナの木の樹皮(内皮)を使った織物で、その頑丈な素材を活かし、魚網であったり、時には米を運ぶ際の袋として利用されてきました。綿織物や化学繊維が登場するまでは、暮らしに密着した「道具」であり、なくてはならないものだったのです。

明治期に使われていた袋。使われるからこそ、道具の美しさが光る。

摩耶山の雪解けハートの形の葉っぱ。花言葉は神話から由来した「夫婦愛」だそうです。この記事を書いた中のヒト、偶然にもシナの花が誕生花なんです。

その歴史は古く、縄文時代まで遡ります。当時から布として利用されていたかどうか、はっきりとした痕跡は土に還ってしまう性質上残されていませんが、居住スペースにシナの花粉が多く残っていたことから、素材としてはその時代から使われていたと考えられています。

しな織の里を訪れてみる

鶴岡市内から、車で走ること40分。野生の猿軍団との遭遇、たぬきの闊歩に注意しつつ、山あいにある「関川しな織センター」に到着。ここでは、機織り体験や実際に織っているところを見学することができます。駐車場に降り立つと、機織りの心地よいリズムと川のせせらぎ、風の音だけが耳に入ってきます。

かつて学校だった、しな織センター。冬は白銀に包まれます。

集落の真ん中を流れる鼠ヶ関(ねずがせき)川。渓流釣りも楽しめます。

靴を脱いで館内に入ってみると、しな織製品がずらりと迎え入れてくれます。
1985年に建設されたこの場所は、かつて地域の子どもたちが通った学校の跡地です。当時の面影はありませんが、住民にとって昔から大切な場所になっています。

木の香りいっぱいの店内。小物から、どっしりとした暖簾まで豊富な品揃えです。

枝やしな織の端切れを使ったオーナメント。

外皮を使ったざっくりとしたカゴ。何を入れようかな。

館内にはミニシアターや、しな織になるまでの工程を学ぶスペースも。
しな織の製造は全て人力で行われ、完成までには22の工程と約一年に及ぶ長い時間を要するのです。

しな織作りの始まりは、木が水分をたっぷり含んだ梅雨の時期に、男手で行われます。山の中で皮を剥ぎ、内皮と外皮に分けられます。残った幹は、乾燥させてストーブの薪に。最近では、一般の方も参加できる「皮はぎ体験」も行っているので、市の広報や、しな織センターのホームページをチェックしてみてくださいね。

ほんのり甘い香りが漂う。真っ白な幹、地元の方曰く舐めると西瓜の味がするそうな。

左は外皮、右が内皮。

川でしなを洗い、石で擦りながら繊維だけを取り出す。

皮はぎ以降の作業は、女性にバトンタッチ。
工程の中で1番重要かつ根気のいる作業が、「しな績(う)み」と呼ばれる、長さのバラバラな繊維を1本の糸にしていく、果てしなく気の遠くなるような仕事です。一朝一夕でできるものではなく、長年の積み重ねの手仕事と言えます。
かっこよく言ってみましたが、うちのオバアはサスペンスドラマを横目にしな績みをしています。

しな績みをするオバアの手。爪で輪っかを作り、そこに糸を差し込み繋げます。

シナの糸。繊維質なのがよくわかります。これだけでも芸術品。

ようやく糸になる頃には、季節はもう冬。
関川は積雪が多く、しな糸作りや織りはこの農閑期の大切な仕事です。

カバンの中に、しな織を忍ばせておく

たくさんの手を介して作られるしな織の世界に、少しでも興味を持っていただけたでしょうか。ショップで気になった商品を、ちょっとだけご紹介します。

一つ目は、がまぐちのお財布です。がまぐちラバーにはたまらない、ころんとした形とサイズ感に一目惚れ。自分用にも、贈り物にも喜ばれそうです。

しな織の楽しみ方は、なんといってもエイジング(経年変化)にあります。
約30年前、開館当初にオバアが購入したバックと、店頭に並ぶバックを比較。

左が30年物、右が新品さん。

生地は柔らかく、色もほんのり濃くなっているのが分かります。
「使うなら、やんざい〜(訳:使うなら、あげるよ〜)」と、最近オバアから受け継ぐことに。目指せ!100年選手!

二つ目は、「てんご」と呼ばれるしな縄で作られたかごバックです。編み模様や大きさ、持ち手の長さはものによって様々です。
私のお気に入りはこちら!このバックを持って、八百屋さんにお買い物、、、南の島の浜辺を歩いたり、、、膨らむ妄想が楽しいです。

希少な布だからと、普段からガシガシ使うことを恐れてしまいがちですが、道具は使ってなんぼ!経年変化を楽しみながら使いたいです。

近年、しなの樹皮だけでなく花の利活用にも注目され、シナの花コスメ・石鹸などの新たな商品開発も進んでいます。シナの花は、抗酸化分が豊富で美肌効果もあるそうです。
こちらのコスメは無添加素材で、大人から子どもまで使えるやさしいスキンケア。3年位この石鹸を使っていますが、もちふわの泡に包まれるのが毎晩癒やしの時間になっています。
これで庄内美人になれるかしら、、、

私は普段から、名刺入れとコインケースを愛用しているのですが、いつもカバンに入れて持ち歩いています。
「その名刺入れって何でできているんですか?」と初対面の人と話すきっかけになったり、お店でコインケースを出すと、「実はわたし、温海地域出身なんです」なんて会話が広がることもよくあります。

しな織には、交わらなかったはずの人と人を結ぶ、そんなパワーが秘められているように感じます。お守りのような、そんなしな織を一度手にとってみていただきたいです。

基本情報

名称/関川しな織センター
営業時間/9:00〜16:00
電話番号/0235–47–2520
休業日/火曜・冬季(1月から3月)の日曜・お盆・年末年始
アクセス/JR鶴岡駅から車で約45分
ホームページ/https://shinaori-sekigawa.com/
駐車場/無料25台

ニショイ

ニショイ

鶴岡市関川生まれのカメラマンのオットと、宮城県石巻市生まれのイラストレーターのツマ。過疎が進む故郷と、3.11で被災した故郷を持つ2人が、『地域のために何かしたい』を原動力に『ニショイ』を屋号にして日々の暮らしをSNSで発信しています。サウナと車旅、3時のおやつ時間が大好きです。庄内のおいしいものや美しい風景、文化、それを支える縁の下の力持ちの方々をご紹介し、皆さんと共有できたら嬉しいです。

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