お神輿が川にダイブ!ペレロレ〜の掛け声が頭から離れない。喜びの雨降らす「鼠ヶ関神輿流し」

お祭り・イベント

4年振りに開催された、鼠ヶ関(ねずがせき)神輿流し。誰も彼も、心待ちにしていた祭りでした。一切の神事が終わった後に雨がサァッと落ちて、きっと神様が歓喜の雨を降らせたんだ、と思わずにはいられなかった。庄内地域でも珍しい、川でお神輿を清める勇ましい祭りです。

新潟県境にほど近い鼠ヶ関は、鶴岡市の西南端に位置する港町です。「近世念珠関」という、関所があった、人やものが行き交う要の地域でもありました。祭りの舞台は、鼠ヶ関灯台がある弁天島に鎮座する厳島神社。漁業が盛んな地域ならではの、豊漁や航海安全の神様であるイチキシマヒメが祀られていて、毎年4月15日に例大祭が開催されています。昔々、源義経が、兄・頼朝に追われた際、弁天島へ上陸し平泉へ逃れたという言い伝えが残る、歴史織りなす場所です。


ニショイのオットは、Uターンしてからこの数年、地元・温海地域の祭りを記録するために写真を撮り続けています。久しぶりの鼠ヶ関の祭りに興奮したようで、「冷静に撮れなかった・・・」とぼやいていました。そんな熱がこもった写真は、こちらの記事の続きをぜひご覧下さい。

ツマはというとコロナ禍に移住し、ほとんどの祭りは規模縮小か中止となっていたため、本格的な祭りを見るのはこれが初めて。過去にオットが撮影した写真を見たことがありましたが、川に入る祭りは一体どんなものか楽しみにしていました。

祭りの前のごあいさつ

祭りの担い手は、精進徒(しょうじんと)と呼ばれる鼠ヶ関の男たち。祭りの前日から、精進料理を食べ、御神酒をたんまり飲み、身を清めます。そのほかにも、当屋や世話役と呼ばれる長老が祭りをサポートしています。

本祭典の前日は、「お山掛け」と呼ばれる、地域内にある7つの小さな神社を順拝する神事が行われます。袴姿の精進徒が、厳島神社の分社だという言い伝えが残る神社へあいさつまわりをします。

急斜面を袴姿で登って行きます。
「綾に綾に、、、」祝詞を読む精進徒。
扇子には、巡拝の順番と祝詞が書かれています。


日が沈んだ後、鼠ヶ関公民館に準備された祭壇で「宵祭り(夜籠り)」が行われます。会場は、たくさんの地元の観客で埋め尽くされていて、会場に入った瞬間からすごい熱気に包まれました。

ご祈祷は、鼠ヶ関公民館に設けられた祭殿で行われます。
祭りの間の精進徒の食事などは、法被を着た世話役たちが用意。

宵祭りの1番の見どころ、その年の五穀豊穣と大漁を占う「でんじかっか」では、精進徒が上裸になり獅子を囲みます。頭から尾っぽまで、本物の獅子のように舞う姿に観衆からは拍手が巻き起こりました。神聖なものなのに、ドカンと笑い声も聞こえてくる。これが「鼠ヶ関らしさ」なのかも。

「でんじかっか」の様子。笑い声と拍手が巻き起こる。


本祭典、行列が出発

神社で朝祈祷を終え、お囃子を引き連れた神輿の行列が練り歩き始めます。厳島神社の鳥居は、道路を挟んだ不思議な位置にあります。これは、かつて離れ浮き島だったところを道路整備したことにより、このような参道になったというわけです。

お神輿の後ろには、地元の子供たちによる子ども神輿の姿も。揃いの法被を着て、大人に負けじと威勢の良い掛け声で盛り上げています。これから約2時間かけて、町中をまわるので体力勝負といったところ。

実は、祭典当日は生憎の雨の予報でしたが、雲の隙間に青空が見える1日でした。久しぶりの祭りを成功させたいという、みんなの思いが届いたのでしょうね。

足元に砂が撒かれているのは、かつての参道を表すもの。
雨の予報も吹き飛ばすぜ!
船の形のお神輿、初めて見ました。さすが港町。
青い法被の子ども神輿。小さなお神輿が可愛らしいです。


行列の最中、先導の笛の合図でお神輿は左右にゆすられて力比べをします。「よいささー!」の掛け声。楽しすぎる!!そんな気持ちが表情からビシビシ伝わります。長い行列の途中で、このような見せ場がいくつかあります。

お神輿を左右に押し合う。「よいささー!よいささー!」


御神酒が振る舞われ、行列が進むほどに精進徒の顔は赤く、足取りもふらふらに・・・というのも、お神輿の終着点である川に入るための準備と言われています。終盤に冷たい川に入るので、お酒で体をポカポカにするためだそう。本当か嘘か(笑)

御神酒を飲んで気分上々。この笑顔につられて口角があがっちゃいます。


鼠ヶ関中の人が大集合

見物に出てきた人たちの表情は、笑顔でいっぱい。拍手や、声援で精進徒たちを応援します。所々でお酒、お菓子、地元のお鮨屋さんからおいなりさんの振る舞いも。これも祭りの楽しみのひとつかも。

鼠ヶ関にスクランブル交差点が出現!
振る舞い酒も良いけど、地元鮨店・朝日屋特製のお味噌汁も沁みますね。
ババちゃん(おばあちゃん)に目尻が下がる若者。


おひねりを渡して、獅子に頭を噛んでもらう人もちらほら。手を合わせて祈る姿って、こんなにも美しいんですね。獅子が怖いちびっこに、お構いなしな大人たちも鼠ヶ関らしい(笑)

手を合わせる地元のババちゃん。
悪い顔の大人たち。


当屋と呼ばれる家の前で行列が止まり、天狗舞や獅子舞が披露され家の厄を払います。観衆の中、堂々と披露される天狗舞は、地元の小学生が舞っています。ぐるりと精進徒が囲んでいて、天狗が持つ鉾を目掛けて「低ぐしろよ〜!」と声をかける。

祭りを追っている中で、この動作に意味はあるのだろうか?と思う仕草や掛け声が何回かありました。意味よりもきっと、祭りの中での美徳というか、こうしたらかっこいいし面白い、という理由が強いのではないかと感じられました。それにしても、人を笑わせるのが好きな人たちばかり。

軸がぶれない、凛とした天狗舞は大人顔負け。
コチラが「低ぐしろよー!」のシーン。


お囃子と威勢の良い掛け声に、気温がぐぐぐっと上がる熱気と高揚感。足の裏がふわっと軽く、胸が高鳴ります。

年に1回、この祭りのために生きているような鼠ヶ関の男たち。仕事や進学で土地を離れても、この日のために帰ってくる人も多いのです。離れていても、お囃子のリズムや祭りの流れは身についていて、呼吸するかのように笛を吹き、「ペレロレ〜」の掛け声を口にする。この不思議な掛け声は、しばらく頭から離れませんでした。

先導は行列の中でも大切な役割。神輿を見守る後ろ姿がかっこいい。
「祭典に参加するので、お店休みます。」の張り紙が。もちろんですとも!
お祭りスピリットは地元のちびっこにも。ペレロレ〜。


春の川へ、お神輿を流す

雪解け水が流れ込む、まだまだ冷たい鼠ヶ関川。お神輿を担いで川に入っていく姿を対岸から見学しました。

ウォーミングアップ中も激しめ。冷たい川にダイブする人も。


川の上流で神輿に水をかけ、ゴシゴシ拭いて清めて下流に流す。これを3回繰り返すことで、「神輿流し」の神事が完結します。水飛沫をあげて、激しく神輿を洗い流すことで、航海安全や豊漁を祈願します。ごうごうと流れる水を押し返し、進んでいく姿が勇ましくかっこいい。

ここがイチバンの見せ場です。


橋の上も見物客でいっぱい。上から見ても、横から見ても、なんて激しい祭りなんでしょう。寒さを感じさせない精進徒に、ただただ拍手。


祭りが終わりに差し掛かると、大男たちが目に涙を浮かべて名残惜しそうな表情。現代の暮らしでは遠のいてしまった「祈る」という行為が、目の前で行われていることに、なんだか胸が熱くなりました。


「無事に航海ができますように」「豊漁に恵まれ、家族が飢えることがありませんように」「健康に一年を過ごせますように」

当たり前に暮らしのそばにあった、神様の存在。ご先祖さまたちがずっと繋いできた、祭りという形の祈り。意味は変われど、形は変われど、面白おかしく、神様や地域のみんなを笑わせてくれる、そんな若者たちの祈りの姿を垣間見た気がしました。

基本情報

名称/厳島神社祭典、鼠ヶ関神輿流し
日時/毎年4月15日9:30頃、厳島神社から神輿が練り歩きます
アクセス/JR鼠ヶ関駅からマリンパーク鼠ヶ関まで徒歩で約10分
駐車場/無料180台

ニショイ

ニショイ

鶴岡市関川生まれのカメラマンのオットと、宮城県石巻市生まれのイラストレーターのツマ。過疎が進む故郷と、3.11で被災した故郷を持つ2人が、『地域のために何かしたい』を原動力に『ニショイ』を屋号にして日々の暮らしをSNSで発信しています。サウナと車旅、3時のおやつ時間が大好きです。庄内のおいしいものや美しい風景、文化、それを支える縁の下の力持ちの方々をご紹介し、皆さんと共有できたら嬉しいです。

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